くきはの余生

リタイアしてようやくのんびり暮らせるようになりました。目指すは心豊かな生活。還暦目前で患った病気のこと、日々の暮らしや趣味のことなどを綴っています。

わすれな草・竹下夢二:恋しい人を思ってたたずむ樹下美人

竹下夢二の「わすれな草」を読みました。

絵入り小唄集『どんたく』の中の一篇です。青空文庫で読めます。→図書カード:どんたく 底本は、『どんたく』(1993年中公文庫)。初版発行は1913年(大正2年)『どんたく』(実業之日本社)です。 

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 竹久夢二は、1884年(明治17)年生まれの日本画家、詩人です。夢二式美人として有名な美人画を多数描いていて、大正ロマンを代表する画家です。詩や歌詞、童話なども書いていて、「宵待草」は曲がつけられて愛唱家として親しまれています。 

 わすれな草

 

         竹久夢二

 

袂(たもと)の風を身にしめて

ゆふべゆふべのものおもひ。

野(の)ずえはるかにみわたせば

わかれてきぬる窓の灯(ひ)の

なみだぐましき光(ひかり)かな。

 

袂(たもと)をだいて木によれば

やぶれておつる文(ふみ)がらの

またつくろはむすべもがな。

 

わすれな草(くさ)よ

なれが名(な)を

なづけしひとも泣きたまひしや。

 絵入り小唄集『どんたく』の中では、「日本のむすめ」というタイトルの後に、「宵待草」があって、その次にこの「わすれな草」が置かれています。

竹下夢二の美人画そのままの詩です。文語体なのでわかりにくい部分もありましたが、あえて語釈を考えずにイメージで読んでみました。

袂をゆらす風が身に染みる夕べに、娘がひとりたたずんで遠くを見ています。はるかな野末のその先には、涙ながらに別れてきた、あのお方の家の灯があるのです。

袂を胸に抱きしめて、木に寄りかかってみれば、文(手紙)がはらりと落ちるのでした。破れるほどに何度も読み返した文なのでしょう、繕うすべもなく破れたまま大切に身につけて持っていたのです。

「わすれな草よ」と娘は呼びかけます。はじめてお前の名をつけた人も、私のように恋しい人を思って泣いたのかしらと。

なんとも一途で純情な娘の思いが描かれています。木の下にたたずむ女性は、樹下美人の構図として古くから描かれてきたモチーフですが、この詩もまさに、もの思いに樹下にただずむ女性、樹下美人図の構図を表現しているように感じます。