おばさんは電気炬燵で夢をみるのか?

60歳目前に患った癌と糖尿病についての覚え書き。日々を心豊かに暮らすために考えたことを綴っています。

春の詩集・河井醉茗:そっと心に秘める青春の日々の記憶

河井醉茗の「春の詩集」を読みました。岩波文庫『醉茗詩抄』青空文庫で読めます。→図書カード:春の詩集

 f:id:kukiha-na:20171022225432p:plain

 河井酔茗は、1874年(明治7年)大阪生まれの詩人です。詩集に『無限弓』『灯影』などがあります。口語自由詩を提唱して、「文庫」(少年文庫)の記者として詩蘭を担当して、北原白秋島木赤彦など、多くの詩人を育てました。 

 

春の詩集

         河井醉茗

あなたの懐中にある小さな詩集をみせてください

かくさないで___

 

それ一冊きりしかない若い時の詩集

かくしてゐるのは、あなたばかりではないが

をりをりは出してみらた方がよい。

 

さういふ詩集は

誰しも持ってゐます。

 

をさないでせう、まづいでせう、感傷的でせう

無分別で、あさはかで、つきつめてゐるでせう。

 

けれども歌はないでゐられない

淋しい自分が、なつかしく、かなしく、

人恋しく、うたも、涙も、一しょに湧き出た頃の詩集。

 

さういふ詩集は

誰しも持ってゐます。

 

たとへ人に見せないまでも

大切にしまっておいて

春が来る毎に

春の心になるやうに

自分の苦しさを思ひ出してみることです。

 

詩集には過ぎて行く春の悩みが書いてあるでせう。

ふところ深く秘めて置いて

そつと見る詩集でせう。

 

併し

季節はまた春になりました

あなたの古い詩集をみせて下さい。

 以前には、当ブログに私が若い頃に書いた詩を掲載していましたが、先日、非表示にしてしまいました。はじめは若い頃の記録として残して置こうと考えたのですが、しばらくしたら、どうにも恥ずかしくて、いたたまれなくなってしまったのです。

その後でみつけたのが、この「春の詩集」でした。「をさないでせう、まづいでせう、感傷的でせう/無分別で、あさはかで、つきつめてゐるでせう」その通りでした。 

oba.hatenablog.com

作者が言う「春の詩集」とは、現実の詩集ではありません。言うならば、青春の日々の記憶でしょうか。誰でも通り過ぎてきた若い頃の思い出です。

大人になって思い出すと、なんであんなことで悩んでいたのだろう。どうしてあの時もっとうまく立ち回れなかったのだろう。不器用な自分の行動が恥ずかしく、後悔の念でいっぱいになることもあります。

それでも、あの当時はそう言うしかなかった、そう行動するのが精一杯だった。恥ずかしく思い出すと同時に、当時の自分が可愛らしくも感じるのです。

「ふところ深く秘めて置いて/そつと見る詩集でせう」心を許せる友には話すこともあるでしょうか。それとも、誰にも言わず、そっと心に秘めておくのもまた一興かもしれませんね。