蔵原伸二郎の「足跡」を読みました。
青空文庫で読めます。→青空文庫図書カードNo.56986 底本は『近代浪漫派文庫29大木惇夫 蔵原伸二郎』(2005年新学社)
蔵原伸二郎(1899年-1965)は詩人、作家。阿蘇神社の直系の家系で、父親は神官。母は医学者北里柴三郎の妹でした。
大学在学中萩原朔太郎の影響を受けて詩を書き始めました。
足跡
蔵原伸二郎
ずつと昔のこと
一匹の狐が河岸の粘土層を走っていつた
それから
何万年かたつたあとに
その粘土層が化石となつて足跡が残つた
その足跡を見ると、むかし狐がなにを考えて
走つていつたかがわかる
詩人の作品には狐を詠んだ詩がいくつかあって、きつねの詩人とも呼ばれるそうです→ 青空文庫図書カードNo.56983
この詩は短い詩ですが、なぜかとても印象的でした。淡々と書いているようで、とても強いエネルギーを感じました。
後で知ったのですが、詩人の絶筆になった作品なのだとか。
狐は、エサを求めて走ったのでしょうか、それとも、伴侶を求めて走ったのでしょうか。いつものようにただ走っただけなのに、地層の中にその瞬間が切り取られました。
まさか何万年後の未来にその目的が取りざたされるとは思ってもみなかったでしょうね。
同じ狐が走っても、そこが粘土層の上でなければ消えてしまっていました。後世にその存在が残るのは特別な1匹なのかもしれません。
でも、 はっきり見えなくても、何万年も先に残らなくても、誰の後にも足跡が残ります。
残したかったものがそのまま残る場合と、意図しなかったものが残る場合とがあって、思うままに残せるとは限りませんが、その人の生き様は足跡となって周囲の人の記憶に刻まれるのです。
詩人が最後に残したかった足跡は何だったのでしょう。そして、私はどんな足跡を残すのでしょう。 最期の時に満足した足跡が残せるかどうかは生き方次第なのですね。